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アンダーグラウンド
村上春樹。1997年初版。1995年3月に起きた地下鉄サリン事件のルポルタージュ。
この本は事件の全容を描くノンフィクションであると同時に、村上春樹が作家活動における新たな目標を読者に宣言した記念碑的側面もある。村上春樹ファン以外にはどうでもいい問題だと思うけど、それを除いても日本人が日本を説明しようと試みた一例として重要な意味を持つ。
サリン事件が起きた当初、村上氏は日本を離れて作家活動を行っていたらしい。事件が起きた日に偶然日本に滞在していて、それに関する報道や論評に触れたのを契機に、生まれ育った日本社会を見つめ直してみようと決心して被害者へのインタビューを行った。
ほとんどの内容は、被害者や被害者遺族へのインタビューで構成されている。平和な日常が暴力的に破壊された人々の証言を、怒りや失望などの感情吐露をできるだけ避けるように、普通の言葉で淡々と書き連ねる。しかしインタビューを読み進むにつれ、我々の目が見慣れたはずの言葉は、心の奥底に暗いものをぽとりと落としていく。
最後の章はオウム事件がもたらした心の闇の正体に迫る。数多くの日本人が疑問符で濁し、出来るだけ触れないように存在を遠ざけるオウム真理教や、事件が起こるに至った事実関係、被害者や容疑者の心象風景をまっすぐ見据えて論じる。
最近この本を読み返した時、村上氏の姿が短編小説集・神の子どもたちはみな踊るに登場するヒーロー、かえるくんに似てると思った。かえるくんは東京の地下に潜む悪と闘い、人間を救った代償に損なわれ、失われてしまった。しかし村上氏は損なわれたまま生きている。人々が目を背けた対象から新しい世界を発見し、今もなお読者を惹きつけてやまない魅力をたたえて変化し続ける。
だから9月に発売される新刊・アフターダークがとても楽しみ。海辺のカフカもまだ読んでないのに。海辺のカフカは絶賛されすぎてて読むのがこわい。もうそろそろ読みたいな、と自分に言い聞かせる今日この頃。



